印 籠 〜かねは怪異譚

 これか?ほや、新しいやろ。こんなハイカラなもん儂に似合わんやろ。こっりゃ今から60年ほど前におっかしなお婆ばばからもらった物もんや。嘘じゃねぇげん、本当やぞ。

 8歳やった儂は隣村の赤土村へ何やったか届け物を持って行ったんや。今もあっりゃろ、白い土蔵のある大きな家うち。ほや、上村様の家へ行ったんや。ちょうどその日ゃ長男あんかの婚礼で、儂も女中部屋で御馳走ごっそにありついたんや。普段は喰うたことも無ねぇような御馳走ごっそが並んどってびっくりしたわ。時間も忘れてぱくついたわ。帰りは、とっぷり日も暮れてぇ、こんなに遅ぉなったら親父おっとに怒られると思て、儂は寺中じちゅうの森を抜けて近道する事にしたんや。
 恐こえーことなんか無ねぇと自分に言い聞かせながら細い道を走っとっとぉ、池の方からちゃぷちゃぷ音がすらんや。よーぉ見っと一人のお婆ばばが池の淵に座っとったんや。

 「ぼうず、わっりゃ名前なめえは?」
 「..........」
 「名前なめえねぇがか?」
 「え、え、え、え、栄吉じゃ。われはうんだばばやろ。子供をさろて、喰てしまうちゅう話や。儂を喰うがか?」
 儂っや、逃げようにも体が動かんがや、そやさけぶるぶる震えながら答えたんや。
 「ほうか、栄吉ちゅうがんか、脅ろかしてすまんな。儂はうんだばばでもねぇし、子供なんかも喰わん。今な、メダカをとっとるんや。」
 「メダカを喰うんか?」
 「馬鹿だら、お前は喰うことばっかりやな、メダカも喰わんがや、儂の村ではメダカがおらんがになったさけ、少ちょこしこの池から分けてもらお思て、とっとるがや。高こー売れるしな。」
 「お婆、メダカなんか買うやつはおらんやろが。」
「栄吉、世の中はいろんな事があるもんや。ほれから、いろんな事が変わって行くしな。
儂の事は誰にも言うたらあかんぞ。ほやな、そのかわりこれをやるわ。びっくりさせたお詫びや。美うつっしやろ。」
 儂は、お婆ばばから見たことも無い美しい物をもろたんや。銀に輝く印籠のように見えたわ。格子状の模様の中に何か記号が描いてあってな。思ったほど重くなくて不思議なほど手になじむ感覚やったんや。

 ハッと気が付くとお婆ばばは姿を消してしもたんや。それからそれは誰にも見せんとしまっとたんやけどな。ちょっと思い出して出してきたちゅうとこや。昔は何する物もんかわからんかったけど。今は誰でも判るやろ。それが何するもんか。

栄吉の手の中でそれは突然電子音を発して光り出した。
栄吉はゆっくりと、格子状の模様の中のひとつを押してみた。
「もしもし、萌ちゃん。遅いじゃん。早く来なよ。」
「違いますけど。」
「うっそー。間違えちゃった。」

もらった物もんは何か判ったけど。ほしたらあの婆ばばは、何者なにもんやったんかのう。ますますわからんがなったわ。

2001/04/08
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